リタが突っ走って怪我をして、カッとなったおっさんが魔物を一瞬で屠ったあとの夜……という感じです。
リタは夜半すぎにふと目を覚まし、暗闇の中にレイヴンの顔がぼんやりと浮かぶのを見た。一瞬驚いて起き上がりかけたが、それはできなかった。レイヴンがしっかりとリタを抱き締めたまま眠っていたからだ。
――あたしがあんな無茶したから……ほんと、ばかだったわ……。
リタはそっと手をのばし、眠るレイヴンの頬に触れた。指先がじんわりと冷たくなる。
このひとは、自分よりも長く生きてたくさんのものを見てきて、きっとリタよりもずっと強いことが分かった。なのに、どうしてこんなに脆くて儚い心地がするのだろう。隙間をなんとか埋めるようにリタは腕の中に閉じ込められていた。染みるような悲しみで胸が痛いと思った。
もしあたしがいなくなるようなことがあれば、どうなってしまうのだろうーー想像して怖くなる。あたしを大切に思うなら、自分のことも大切にして、とリタはレイヴンに言ってきた。だが、リタが傷を負ったり弱ったりすると、レイヴンはとてつもない動揺を見せる。それは魔物を屠る冷酷な目や、そのあとのどこか怯えたような表情、それからリタを掻き抱く腕などに、如実にあらわれていた。そのたびリタは罪悪感と、少しの驚きを覚えていた。
ーーあたしが傷つくことで、傷つくひとがいるなんて、考えもしなかった。
何かを得るためには傷ついても当たり前で、自分が傷ついてもなにも構うことはない、そう思っていたのに、結果的にレイヴンのことも傷つけてしまっていた。そんな風に傷ついて傷つけて、得るものなどなにもない。大切にされる、ということはこんなにも難しいのだと、リタは痛感した。ーーそうだ、結局、あたしもおっさんと同じだったんだ。
リタは、その頬のつめたさに心が震えて泣きたいような気がした。ーーああ、おっさんもきっとこんな気持ちで、あたしを見てたんだ。大切なものが増えるということは、なくしたり壊れたりするのを恐れつづけることで、レイヴンはずっとそれに耐えていたのだと。
「ごめん……あたし、もうばかなことしないようにするから」
だから、いなくならないで。
声にならなかった最後の一言を、水っぽい涙と一緒に飲み込んで、リタはそっと祈るように目を閉じた。
あとがき
大切なものができれば、こわいことも増える。という話。
個人的にレイリタの大きなテーマかなと思ってるのでカッとなって短いですが書いてしまいました。レイリタは尊い。
「何も傷つけずに望みを叶えようなんて――」は、リタの代表的な台詞ですよね。自分がかつて言ったことを、時間が過ぎ自分も変わったあとならどう思うかなと思って使わせていただきました。
前もリタが目を覚ます話書いたような。夜の話好きです。