眠るまでそばにいて

夜眠る前、リタはレイヴンの眠る姿をみていつかのことを思い出す。

普通に同棲してます。


 

リタはコップの水を飲み干すと、コップをカツンとキッチンに置き寝室のドアを見やった。

レイヴンと暮らすようになってから、研究が立て込んでいる日以外夜はちゃんと寝るようになった。いつも忙しいレイヴンは、今日はとびきり目まぐるしい日であったらしく、帰ってくるなり「リタっちー……ごめん……」といってリタの胸に倒れこみ眠ってしまった。ごめんというのは、いつも作っている食事を作れないことへの謝罪だろう。今日は残り物を簡単に料理して食べた。思えばそういう料理も全部レイヴンから教わった。ああ、ずっと支えられてきたな、と改めて思った。リタは思わず笑みをこぼして寝室に向かった。それは彼の前ではあまり見せることのない笑みだった。

寝室のドアを開けると、レイヴンはダブルベッドの半分で静かに眠っていた。レイヴンは寝姿がきれいだった。いびきなどもかいているところは見たことがない。たぶん任務などで、静かに睡眠をとらなくてはいけない状況があったからだろう。寝息さえもとても静かで、耳を澄まさないと聞こえないので、時々息をしていないのではないかと不安になってしまう。リタは自分のほうが後に寝るときは、レイヴンの寝息をじっと確かめてから眠るのがいつものことだった。

レイヴンは今こそいつも結っている髪をほどいて寝ているが、一緒に暮らし始めたころは頑としてほどこうとしなかった。「このほうが落ち着くの」と言い張って。

リタは、それは自分を気遣ってのことだと知っていた。シュヴァーンのことを思い出させたくないというレイヴンの気遣い。ちゃんと髪をほどいて寝ている姿をみると、安心する。リタは気づけば手を伸ばし彼の髪にふれていた。髪はきれいでつめたかった。いつもはわざとぼさぼさに結い上げているのだとわかる。そうして無心でさわっていると、いつの間にレイヴンが目を開けているのに気付いた。

「ばっ……なんで起きてるのよ!」

「早く寝たから、目覚めちゃった」

そうしたらリタっちが髪撫でてくるからーと言いかけた彼の頭をリタはがっと枕に押しつけた。

 

「最初、髪ほどこうとしなかったわよね、あんた」

リタは布団にもぐりこんで、ぽつりと言った。

「ああ、一緒に暮らし始めた頃の話?」

「そう、あたしにシュヴァーンを思い出させないようにって」

初めて髪をほどいた姿を見られたとき、リタは一瞬怯えたような表情をしていた。それを見たとき、レイヴンは髪をほどいた自分の姿がシュヴァーンを思い起こさせることに気づいた。レイヴンもあの神殿のことは苦い記憶だ。リタにそれを今さら思い出させたくはなかった。時を止めていたかつての自分を。見られたくなかった。

「ばかじゃないの、って言ったわね」

「そう、リタっちは、本当に強い子だった」

 

『ばかじゃないの』

リタはそう言い放った。

『あたしはおっさんを好きになったんだから、思い出したっていいじゃない』

目を見開くレイヴンを見やり、リタは今と同じようにレイヴンの隣にもぐりこみ、彼の頭を掻き抱いて言った。

 

『だから、どんなおっさんでもいいの』

 

「リタっちには、かなわないわ」

レイヴンはその時と同じ台詞を口にした。この少女の前では、自分はなにも隠す必要はない。思いきり呼吸してもいいのだと知った。

「あたりまえよ」

昔より、微笑みをたたえた顔でそう言う。リタは照れたように布団をもぞもぞとかぶりなおした。レイヴンはその頭をふわりと撫でた。

 

 

「明日早いんでしょ、さっさと寝たほうがいいんじゃない」

「ん、そうするわ」

レイヴンは目を閉じて、しばらくしてまた開けた。

「手、握っててくれる?」

「……ん」

リタがそっと手を重ねると、きゅっと握ってレイヴンはすうっと寝入ってしまった。こうして寝つきの早くなったのを見るのも、リタは嬉しかった。

寝息がよく聞こえるようにそっと体を寄せた。

小さくきこえるその音に、リタは安心して目を閉じた。

耳を澄まさなくても、心臓の音はリタに響いていた。

 


あとがき

 

スピッツの「さらさら」という曲にこんな一節があります。

 

眠りにつくまでそばにいてほしいだけさ

見てないときは自由でいい

 

なんかもうレイリタ!!って感じしませんか?しませんかね……。

リタに「どんなおっさんでもいいの」って言わせたかっただけでした。