そんな日がいつまでも


例えば自分にしかできないことがあるとして、それが誰かの運命を左右する、誰かを救えるほどの重大なことであるなら、自分はどういった行動を取るだろう。自分という存在に意味が与えられることを喜ぶだろうか。それともそこにのし掛かる責任を重たいと感じるだろうか。

レイヴンはふっと口元を緩める。そこに変えられる運命があるのなら迷わず進むであろう青年や、考えるより先に相手を救いたいと手を伸ばすであろう姫君のようにはなれそうもない。

――そういうあなたが好きよ。

最後まで誇り高く立っていた彼女のようにも。

「なにそれ、バカっぽい」

膝に本を広げたままリタにそう返される。例え話だからさ、と冗談のように笑って話したのに、ひそめられた眉はなかなか直らない。

「視野が狭すぎるのよ。そういうときこそ他の可能性を探すために冷静にならないといけないんじゃないの」

自分にしか、というのが思い込みでないか、真に一つの可能性なのか検討せずに行動することは軽率だとリタは言う。長く話して疲れたのか、ソファに乗ってきた猫を撫でて少し眠そうにしている。

それなりの時間、リタのことを見てきたから知っている。彼女の語ることを実際に行うのは言うほど易くはないということ、そして彼女はそれをやってのける力があるからこそ苦しむのだということも。

「リタっちはさすがねえ」

猫の頭をふにふにと撫でると、少し意味ありげな視線でこちらを見る。リタの頭にも手を乗せると、ぺしりと叩かれた。違ったみたいだ。

苦しみたくはないし、苦しませたくはない。だから、そんな誰かの運命を左右する選択肢を握る日なんてやって来ないほうがいいのだ。そうしてゆるやかに先延ばしにしたその先にきっと自分は立ち尽くしている。その日までずっと答えの出ない問いを抱え続けて。