本当


宿の部屋の前でレイヴンは思わず立ち尽くす。少し開いた扉にも気づかずに集中を崩さない少女の背を見つめる。揺るぎない真実がこの世のどこかに存在し、いつか見つかると信じて疑わない、そして見つけるまで決して諦めない、そんな人間がいるのだ。

そんなに必死になって探したってどこにもないよ――思わず声をかけたくなる。馬鹿げていた。本当と嘘の境目などどこにあるのか、とうに分からなくなった人間に何が言えるだろう。彼女は正しい。自分の半分の年も生きていないのに、彼女は真実そのものであるかのように美しい。

「黙って突っ立ってないで、なんか言いなさいよ」

ペンを片手に持って、リタが振り返る。少し目が赤く、前髪が乱れている。長く長く息を吐く。

「……サンドウィッチ、あるよ」

今言えるたった一つの本当のことを、やっとの思いで口にした。