いつもの夜に

ふたりのある日の夜の話。


今日はかすかに月が出ていて、窓枠のなかだけぼんやり光っている。夜は深い闇をいつもこの部屋にもたらすけれど、かすかな光が顔の半分だけを照らした。じっと見ると目が合って余計なことを考えてしまいそうで、下を向いた。

 

ベッドに並んで腰かけると、大きな手がそっと頬にのばされた。この瞬間が、いつも一番どうすればいいかわからなくて、高鳴りが内側からいっぱいになってはじけ飛びそうになる。もう目を閉じているから、なにをしてるのか、どんな顔で見ているのか、わからない。

 

すう、と息づかいが聞こえたかと思うと、ふっと唇がふさがれた。何度も触れるたび、頬にかけられた指が這い、距離が近づく。あたたかいと感じたのは、気がつけば腕のなかにいたからなのか、求められることがやはり嬉しいからなのか。なんど経験しても、慣れない。

 

背中にまわされた手にぐっと力がこめられたかと思うと、唇を割って生温くやわらかいものがすべりこんでくる。今日はいやに神妙だったのに、と昼間の様子を残った思考で思い出す。バランスを崩して後ろに倒れそうになって、ぎりぎりのところで引き戻された。後頭部をすっぽり支える手のひらは熱く、触れ合った唇も熱を生み、それから体と体から発する熱と、ぜんぶ囲まれて閉じ込められているような気分になった。心地よいような、怖いような気持ちがない交ぜになって、右手をそっとざらついた頬にのばした。一瞬動きを止めたと思うと、また、ぐっと深くふれあった。動かした指先が睫毛に触れた。ぬるい雫がつうっと伝い、涙なのだとわかった。そのまま指先でそっと拭った。

 

ゆっくりと唇がはなれたかと思うと、端からこぼれた唾液を、舌先でそっと舐めとってくれた。そしてああ、と気がついたように自分の手の甲で両目を押さえた。

 

「……大丈夫?」

そのまま、その言葉を発したのはあちらだった。

 

「あたしはね」

そう言ってみせると、情けなさそうに目を細めた。

なにごとか言いかけて、でも言葉にならない様子だった。だから力の抜けた手を取って、唇をおしあてた。指先のまめをひとつひとつ、確かめる。

 

「……リタっち、そういうのはね、軽々しくやっちゃダメよ」

「そんな様子で注意されても、説得力ないわ」

 

そうしてふっと微笑みあって、今夜はそのままのろのろと眠りについた。けれどなんだか、体じゅうがふわふわと熱くて、なかなか寝つかれなかった。ふと自分の指先にくちづけてみると、ほのかに塩からい味がした。明日は、あたしが泣く番かもしれない。

 

それがおかしな間柄のあたしたちに訪れる、いつもの夜の話。


あとがき

 

曖昧な関係が好き……とか思いながら、とりあえず深いキスをしてるレイリタが見たい!!って書いただけの話です。互いになくてはならない存在なのに、確かなものを持たないまま寄り添う二人がめちゃくちゃ好みです。

ありがとうございました。