両片思い

Twitter診断の「CP創作お題をアンケで決める」で書いたお題その3です。

4つのうち3つが同票になったので3つとも書きました。

 

その3は凜々の明星の人たちが出てきます。


これが物語のお話でなく、現実に起こっていることだというのは、とても素敵なことだと思います。

リタは先ほどから机に突っ伏して、うんうんと唸っています。それをずっと見ていると、つい可愛らしいなあと思ってしまいます。

「……なんだかあたし、変になっちゃったみたい」

しきりにそう呟きます。

「具体的には、どういう感じなんです?」

「どういう感じって……なんていうか、イライラするのに、ここがぎゅっと痛くなって、熱くなって、モヤモヤする」

胸元にぎゅっと握ったこぶしを当てて、苦しそうな顔をします。

「リタは、自分でどうにもならない気持ちを、もどかしく思ってるんですね」

「……うん、たぶん、そうかも……だって、いくら考えたって、わからないわよ……あいつのことなんか……」

リタの肩に手を置いて、ゆっくりと撫でてあげました。ひとまず、お茶を一緒に飲んで、ゆっくり考えましょう。大切なことですから。

 

 

 

 

 

「はあ?」

思わずグラスを置いて聞き返してしまった。

「……おっさん、もう一回言ってくれ」

「だからぁ……俺って、男としてどう、かなあ……なんて……」

最後のほうは明後日の方角に目を逸らしながら言っていた。中年男にそんなことを恥ずかしそうに言われるこっちの身にもなってほしい。

「……リタのことか?」

「はあっ!?いや、そ、そんなこと一言も言ってないでしょぉ!?」

「まだやってなかったのか」

ぶぶう、とレイヴンが勢いよく酒を吹き出す。

「汚ねえな、いい歳して取り乱してんじゃねえよ」

脇にあった布巾を投げてよこすと、はあ、と息をつきながらテーブルを掃除する。

「……そんなんねえ、するわけないに決まってんでしょ、そういう間柄じゃないんだし、ましてやリタっちになんて」

「まあ、本当にやってたら、何人かすっ飛んでくる奴らがいるだろうけどな」

レイヴンは肩をすくめて、また大きなため息をついた。

「やっぱねえ……おっさんみたいな奴はさ、ダメだと思うんだわ、ただの研究対象がお似合いってもんよ」

「何がダメだって?」

「へ?」

「何がダメか、リタに直接聞いたのかよ」

「直接って、ねえ……青年ってば、男前〜……」

グラスに入った酒を煽って、中年男は下を向いてぶつぶつと何事か呟いている。今夜は長くなりそうだ。片手を挙げて、追加の注文をすることにした。

 

 

 

 

 

「今までなんにもなかったのに、当たり前のことだったのに」

リタはティーカップを両手に持って、ゆらゆらと揺れるお茶を眺めています。

「リタは、レイヴンの心臓のことが心配で、一緒に暮らすことになったんですよね?」

「まあ、そうよ……あと、その頃あたしが研究所の一室を間借りしてて、まともな生活してなかったから、それで、なんだかんだあって」

あの時はみんなも驚きました。まさかレイヴンとリタが一緒に暮らすことになるなんて。

「あくまで一時的な措置よ、けど……」

目を伏せて言葉を止めてしまいます。

そのとき、家の外から声が聞こえました。

「エステル、来たわよ」

「あ、今行きます!」

扉を開けると、ジュディスが微笑んで入ってきました。

「あんた……なんでいるのよ」

「お茶会にお呼ばれしたのよ、ね」

こちらに目配せするので、わたしはにこりと笑いました。

「リタがおじさまのことで悩んでいるらしいから、力になれないかと思って」

「な、なんであんたが知ってるのよ!?」

「あら、大事なあなたの悩みを知っていたらおかしいかしら」

さらりとそんなことを言ってしまうジュディスに、リタも言い返せなくなってしまったみたいです。

「それで、リタはこれからもおじさまのそばに居たいのね」

「……っ……突っこむ気力もないわ……」

リタは顔をかあっと赤くして、力が抜けたようにまた突っ伏してしまいました。ジュディスと顔を見合わせて、ふふ、と微笑みあいました。

「わかってる……おっさんはあたしのことなんか、なんとも思ってないって……心臓見せろってうるさいガキくらいにしか思ってないのよ、あいつ」

リタがこんなに自分のことを卑下するなんて、とても珍しいことのような気がしました。

「……でも、一緒にいた時間、それだけじゃありませんよね?リタがレイヴンを見ていたのなら、レイヴンもリタのことを見ていたはずです」

わたしがそう言うと、リタはぱち、とゆっくり瞬きをしてから、ぎゅっと目をつむってうつむきました。

「おっさんは……あたしのこと、どう思ってるんだろう、何考えて……あたしと一緒にいたんだろう」

「そうね、おじさまの気持ちは、もしかしたら違うところにあるかもしれないわ。でも、大事なのはそこじゃないわ、あなたがどうしたいか、よ」

しばらくじっと黙っていたリタは、顔を上げて、力強い瞳で言いました。

「……あたし、もう、このままじゃ嫌」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ〜……このままじゃダメよなあ……」

あいもかわらず酒を注ぎながら、ずっと同じようなことをこぼしている。

「だから、何がダメなんだよ」

「いや、よく考えてよ、将来有望な若者を、未来ある女の子を、こんなおっさんが繋ぎ止めてんのよ、ダメでしょうよ」

はあぁ〜……と重いため息。並ぶ空き瓶に、絶対酒代は持たせてやる、と強く決意する。

「まあ、そういう見方もできるだろうな」

「でしょー……?だからさあ、なんとかしないといけないんじゃないかって」

「で、さっきの男としてどうか、みたいなトチ狂った質問はどうしたんだよ」

あちゃー、と苦々しい顔をする。

「それ忘れて……そもそも、リタっちにはもっとそばにいるのにふさわしい奴がいるんだから……おっさんみたいなのは、さっさと退散しないとね……」

言葉とは裏腹に、泣きそうな顔で酒をちびちび舐めている。レイヴンの言っていることは、俺にも少し理解できることがあった。そばにいるのにふさわしいか、という問いは、いつも重たくのし掛かるものだ。

「悪霊退散!なのじゃ!」

突然明るい声が場の空気を一変させた。いつの間にか、パティがレイヴンの後ろに立っていた。

「……おい、子どもはとっくに寝る時間だぞ」

「ふっふっふ、今日のうちは立派なレディなのじゃ〜ユーリ〜大人なうちと一杯酌み交わそうではないか〜」

「オレンジジュース一つで」

奥のほうから店主がニコニコと笑いながらこちらを見ている。パティのことだ、何かしら言いくるめたのだろう。

「まあまあ、うちはおっさんの悪霊を退治しに来たのじゃ」

「突然何よパティちゃん〜……おっさんなんか憑いてる?」

「それはそれはもう、ダメダメおっさんの霊が憑いてるのじゃ〜」

パティはひゅーどろどろーと声に出しながら、両手を顔の前に掲げてみせた。その様子にレイヴンは目をまん丸くしている。

「おっさんは、女の気持ちが分かってないのう、リタ姐が、どんな気持ちで一緒にいたのか、ちょっと考えてみたらわかるはずなのじゃ〜」

「そんなあ、おっさんこう見えても百戦錬磨の……」

「リタ姐は、ダメダメおっさんがどうこうできるようなヤワな女じゃないとうちは思うのじゃ」

一刀両断されている。

「まあね……リタっちは、強い子だってのは、わかってるんだけどね、だからこそ、余計にねえ……」

「男なら、正々堂々と気持ちをぶつけるのじゃ」

「簡単に言ってくれるねえ……パティちゃん……」

パティに説教されるレイヴンを見て思わずくくっ、と笑みがこぼれる。してやられっぱなしの図は、はたから見ていると少々愉快だ。酒を一口飲み下して、少しだけ口を挟んでみる。

「……俺には当事者同士のことは分からねえけどよ、少なくとも、リタは周りの目やらしがらみなんてどうでもいいんじゃねえの、あいつが嫌だと思ったらさっさとどうにかしてるだろうよ」

レイヴンはがしがしと頭を掻きむしって、窓の外をぼんやりとした目で眺めた。

「……リタっちは、どんな気持ちで、ねえ……」

静かにそう呟いた。俺もパティも、酒とジュースをそれぞれ口にして、しばらく黙っていた。

 

と、そのとき、窓の外に見知った姿がすっと現れた。それを目にしたレイヴンがテーブルのグラスをがちゃんと倒す。

そうしているうちにバタンと勢いよく店のドアが開き、カツカツカツ、と力強い足音が近づいてくる。

「おっさん!もう何時だと思ってんのよ!」

テーブルにだん、と手をついてレイヴンを見据えるリタ。レイヴンは慌てふためいて目を白黒させている。

「またこんなに飲んで、なるべく控えてって言ったの忘れたわけ?さっさと帰るわよ」

そう言うとリタはレイヴンの首根っこをひっつかんで、文字通り引きずるように持ち帰っていった。

「いや、ちょっと待ってリタっち、自分で歩けるから、いやっ、待ってええええ…………」

レイヴンの悲痛な声が残され、酒場はしばし困惑の空気に包まれた。が、しばらくすると何事もなかったかのように、元の騒がしい雰囲気を取り戻した。

「……行っちまったな」

「さすがリタ姐なのじゃ」

パティは満足そうになぜか誇らしげな顔をしている。

「すごかったわね」

「ですね……」

いつの間にか、テーブルの側にエステルとジュディスが立っていた。

「エステル、ジュディ?なんでここに」

「私たち、リタを送ってきたのよ」

「リタとお茶会してたんですけど、途中でもう帰るっていうので、つい一緒に来てしまいました」

「到着するなり酒場に一直線だもの、びっくりしちゃったわ」

なるほどね、と苦笑せざるを得なかった。

「うちもお茶会したかったのじゃ〜」

「ふふ、またの機会にご招待しますね」

「……で、どうするんだ?」

窓の外を見やりながら言ってみる。

「もちろん、さっさと追いかけるのじゃ!」

「わたしも……ちょっと気になります」

「酔っ払ったおじさまが不埒なことをしないとも限らないしね」

パティは両手を挙げて今にも走り出しそうだ。エステルはちらちらと窓の外を気にしている。ふふ、と微笑むジュディスの目は笑っていない。

「どいつもこいつも、仕方ねえな」

まだ酒代も請求してねえしな、と立ち上がる。カロルやフレンも呼んでくるか?とパティははしゃいでいる。お祭りじゃねえんだから、とたしなめる。エステルはやさしげな微笑みを浮かべながら、はやる気持ちを隠しきれない様子だ。目を合わせると恥ずかしそうに笑ってみせた。ジュディスは得物の準備をしている。ほどほどにしろよ、と声をかけると、おじさま次第ね、と首を傾げる。

夜の街に駆け出す皆を見て、命を預かったギルドの一員として、いっちょ見届けてやるか、という気持ちになった。ほっとけない病を拗らせてしまった、二人の行く末が、どこへ辿り着くのか。


あとがき

 

みんなに世話を焼かれながらもだもだしている二人が好きです。

基本的に二人しか出てこない話を書きがちなので、今回いろいろな人を登場させられて楽しかったです。年齢がバラバラで程よい距離感の凜々の明星の関係がとっても好きなので、またこういうみんなが出てきてわいわいする話書きたいです。

ありがとうございました。