八月の日

初めて書いた現パロレイリタです。

お盆の日を過ごすおっさんとリタっちです。


煙の匂いがして、リタはふと立ち止まった。遠いほど薄くなる藍色の空に、淡い橙の雲がたなびいている。温い風が吹き抜けて、少し前に行きかけた影がひょこっと戻ってくる。

「ん?どしたの?」

「何か、焼けてるような匂いがする」

レイヴンは顔を上げて、少し首を巡らせた。

「ああ、たぶん、迎え火じゃないの」

「なにそれ」

「ご先祖様を迎えるための目印に、火を焚いてあげるのよ、お盆だからね」

そんな日だった、とリタは言われて初めて思い出した。学生にとっては夏休みの一部でしかない。そんな慣習にも馴染みはない。

「ほら、あそこに煙がのぼってる」

レイヴンが指を差した、家々の屋根の合間に目を凝らしてみる。視力が悪いので、ぼやけてしまって、あまりよく見えなかった。

「先祖なんて、会ったこともないのに」

伸びる影の、自分の髪が肩の上で風に揺れるのを見ていた。

「そうね、でも、会いたいと思う人もいるんじゃないかね」

静かな声で言ったレイヴンは、どこか焦点の合わない瞳で、遠くの空を見ていた。雲が縦に長く伸びている。学校の白い階段を思い出した。

「あたしはべつに会いたくないわ、会えないものは仕方ないでしょ」

「リタっちは、お化けが出たら困るからねえ」

からかうように声を低めていひひ、と笑う。サンダルから出たむきだしのつま先をがっと踏みつけた。

「いった!イタタタ……」

「アイス、食べたい」

「ええ……今日何個目よ?お腹こわすよ?」

「うるさい」

リタがすたすたと歩き出すと、後ろからぶつぶつと呟き声が追いかけてくる。

「あ、じゃあさあ、アイスの代わりにスイカにしない?半玉なら二人で切って食べられるし」

「……種は取って」

「はいはい、あ、ついでに花火も買って帰る?ベランダでもできるやつ」

それから、あとは、と次々いろいろな提案が飛び出してくる。まるで絵に描いたような夏が、リタの眼前にみるみる広がる。えっと、そうだなあ、じゃあ――ずっと喋り続けているレイヴンのシャツの裾を、立ち止まってつかんだ。

「今日はスイカだけでいい」

「ん?そう?」

「また明日もあるから」

俯きながらそう言った。アスファルトに書かれた白い文字を繰り返し眺めていた。少しの間があって、レイヴンが裾をつかんだままのリタの手に自分の手を重ねる。

「そうね、じゃあ、そうしよう」

 

遠くからヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。二人でまたゆっくりと歩き始めた。後ろから足音が聞こえてきて、数人の子どもたちが声を上げながら駆けていく。その背中が曲がり角に消えたとき、またふと匂いが漂ってくる。あたたかで、なぜか懐かしくなる。

「……お腹すいたわ」

「うん」

レイヴンは可笑しそうに、くつくつと笑った。


あとがき

 

初めてレイリタの現パロを書いたのですが、現パロって自由ですね……可能性の広がりを感じました。また軽い気持ちで挑戦してみたいです。スイカを一緒に食べるレイリタが見たい。

ありがとうございました。