駆け引き


息をひそめて待っている。気配は迷って、ためらって、それでもじっと覗きこもうとしている。今目を開けば、手を伸ばせば、一目散に離れてしまうのだろう。だから、待つ。力任せに抱き寄せて喰らいつくす夢なら何度も見たのだから。頬にぴと、と触れた指がとても熱い。まだ、待つ。少し伸びた髪がぱらりとおちて、肌をくすぐる。間近に迫られたまま、それでも動かず待っている。けれど待てども待てども何も起こらず、耐えかねて目を開こうと思ったそのとき、柔らかな感触がふっと唇をふさぐ。それは一瞬のことだった。ぴゅっとそよ風が吹き抜けたかのように。我に返ってようやく目を開けたころには、隣ですやすやと寝息を立てている。

「……してやられたわ」

本気の勝負は、なかなか難しいものらしい。