猫の日


帰り道、路地裏に丸まった猫をみつけた。じっと見つめていると目が合って、しばらくすると足元にすり寄ってきた。そのまま歩き出すとついてくるので、とうとう家まで一緒に帰ってきてしまった。

「……そういうわけなんだけど」

レイヴンは目を丸くして、一度手を洗ったあと玄関のほうに近づいてきた。ちょうど夕食のお皿を運んでいたところだったらしい。

「リタっちに懐いちゃったのかね」

「あたし、なんにもしてないけど」

「動物はやさしい人間がわかるっていうし」

玄関先で寝転んだままのんびりと毛づくろいをはじめた猫の腹を、レイヴンの指がちょんとつつく。

「帰るところがないなら、ここにいるかい?」

やわらかな声で話しかける。問われた生きものは意に介さず毛づくろいを続け、レイヴンの指にたし、と前足で触れた。そうして、ブーツを履いたままの足元にくるりとじゃれつく。

「本当にリタっちがお気に入りみたいね」

「そ、そうなのかな……」

よく見るとその体は少しほっそりとしていた。帰る場所がないのなら、今まであの路地裏でひとり生きてきたのだろうか。

「……一緒ね」

「ん、なにが?」

「お腹、すかせてるところ」

温かなかたまりを抱き上げて、テーブルのほうを見やる。ああ、そうだった、と笑って部屋の中にぱたぱたと駆けていく。くるりと丸い瞳と見つめあって、そっとささやいた。

――おかえりなさい。