波が痩せた足をさらいそうに繰り返し打ち寄せる。海風にローブがはためくのを少し後ろで見ていた。
「寒くないですか」
心配になって声をかけると、ゆっくりと振り向く。広い水平線をのぞんでいるからか、浜辺に立つ姿は一回り小さく見えた。
「……風に吹かれるくらいどうということはない」
「そうですか、じゃ、来てよかったですね」
アレクセイはじっとこちらを見つめ、おもむろにふらりと片手を差し出した。とっさに両手で握った。とても冷たかったので、気がつけば胸元に引き寄せていた。ひやりとした感触が伝わる。
「やっぱり、寒いんじゃないですか」
ふわりとローブに包まれ、大きな体躯に抱き寄せられる。金属のつんとした硬い匂いではなく、すうと柔らかな空気を吸い込む。
「君が……生きてくれていてよかった」
言葉が、飛沫と一緒に寄せて流れていく。肩越しのぼんやりとした薄い青の空を見ていた。
「生きてたらね、どこにでも行けるんですよ、もちろん、どこにも行かなくたっていい」
温かな首元に顔をうずめる。海風も血潮の流れまでを冷やしたりはしない。このまま波打ち際で貝になるまでいたっていい。けれど、その赤い瞳が水平線の向こうを見つめるのなら、またきっと歩き出すのだろう。目を閉じて、ずっと波音を聴いていた。ふたたび打ち上げられるときまで。