まだ少しだるさの残った体を引き上げて、レイヴンはベッドから抜け出す。シュヴァーンとリタがぴったりと寄り添ってよく眠っているのをたしかめて、部屋をしずかに出て行く。
そのまま風呂場にまっすぐ向かう。朝のぼんやりとした光がさす中で浴びるシャワーは自分の輪郭をはっきりとさせる。少し汗ばんでいた肌が洗い流されるのは気持ちがよい。鏡の中に自分のからだが映る。最近、シュヴァーンより少し太ったかもしれないとレイヴンは思った。
髪からぽたぽたと落ちる雫をぎゅっと絞り、まとめようとしたが髪紐を取ってくるのを忘れていた。仕方なくそのままタオルをかぶって出る。と、廊下の暗がりにシュヴァーンが立っていた。
「おわっ、びっくりした」
「これを持ってきた」
シュヴァーンの手にあるのは髪紐だった。ありがと、と言って受け取る。
「起きてた?」
「お前が出ていって少しあとに目が覚めた」
「リタっちは?」
「まだ寝ている」
そう言って風呂場に入っていく。同じようにシャワーを浴びるつもりのようだ。シュヴァーンの引き締まった腹を見てやっぱり、と小さくつぶやく。レイヴンは扉の近くまで行き、そのまま座り込む。ざあっと水音が聞こえだす。
「最近、運動してる?」
「いや……特には」
「じゃあ俺が酒飲みすぎかな」
「なんだ、太ったのか」
「ちょっとね」
シュヴァーンが小さく笑ったのが分かった。
「外食も多かったからかなあ」
「リタの誕生日祝いもあったしな」
「あーそれそれ、もうそういうことにしとく」
扉が開きそうな気配がしたので、その前に立ち上がる。タオルで体を拭きながらシュヴァーンが出てくる。同じ目線の高さで雫の伝う顔をじっと見つめる。触れたらきっと温かいのだろう。
「……どうした?」
不思議そうな目で聞かれる。
「朝ご飯、あったっけ」
「パンの残りがあったと思うが」
「でも、なんか違うの買いに行こうかね、ちょっと行ってくるわ」
レイヴンはひらっと手を振って脱衣所を出る。服を取りに自室のドアを開けようとしたところで、呼ばれる。
「レイヴン」
シュヴァーンがつかつかとすぐそばまで寄ってくる。ぽかんとしているレイヴンの頬に唇を寄せて、言った。
「リタが起きたら、三人で行こう」
かすかなやさしい笑みをたたえていた。それを見て、少しだけ胸のうちが震えた。
「……たしかに好きなもん選びたいよねえ、そうしよっか」
「ああ」
そのままレイヴンを見つめているシュヴァーンに、同じように唇を寄せた。石鹸の香りがした。
「リタっち、起きて一人だったらさみしがるかも」
「そうだな、戻ろう」
自室のドアは開けずに、そのまま寝室に一緒に行く。ひんやりとした廊下に玄関からわずかな光がさしている。それがレイヴンの足先をぼんやりと照らしていた。少したるんだ腹に手のひらを当てる。じんわりと温かかった。